
イスラム教の圣地ウマイヤド?モスク。现存する最古のモスクでありながら,もとはローマ神殿,キリスト教圣堂であったという歴史をもつ。中庭の床には镜のように磨き上げられた大理石が敷き詰められている
世界最古の都市
シリアは「肥沃な叁日月地帯」に位置するオリエント文明の中心地で,その首都ダマスカスは世界最古の都市のひとつといわれている。
古代より数々の强国に支配されてきた地で,ローマ帝国の统治を経て,多くのキリスト教徒,ユダヤ教徒が住んでいた。イスラム教が入るのは,7世纪にウマイヤ朝が开かれたときである。シリアといえばイスラム教徒の国と思いがちだが,じつは人口の约1割がキリスト教徒なのだという。
ダマスカスの中心は,城壁に囲まれた旧市街,オールド?ダマスカス。その中心に,东西を贯く「まっすぐな道」が通る。新约圣书にも登场するこの道を歩くと,特に东侧地区にキリスト教会を示す十字架をそこかしこに见つけることができる。旧市街の东侧にキリスト教徒が,西侧にイスラム教徒が住んでいるとのことだが,モスクが并んでいる中に,いきなり十字架が现れるところもある。


ダマスカス最大の市场,スーク?ハミディーエ

贝殻の土产物屋

お菓子が积み上がった店先

スークには同じような间口の店が并び,どこも品物であふれている

中东最大のキャラバンサライといわれる「ハーン?アサド?パシャ」。大空间の美しいアトリウム
密集する店や住居
アーケードが架かったダマスカス最大の市场「スーク?ハミディーエ」は,中东最古のスークとして知られ,食料品や工芸品,衣料品など,ありとあらゆる商店が集まり賑わっている。同じような间口の店が并び,どこも品物であふれている。スークや広い通りの里侧は,细い路地が迷路のように入り组んでいて,小さなスークやモスクが混在し非常に高密度である。住宅は中庭をもつ典型的なイスラムの住居で,何家族かが一绪に住んでいる。
ダマスカスは,シルクロードの最终地点でもあり,かつて砂漠の队商がさまざまな品を运んできた。スークでは中国から伝わってきたと思われる陶器なども见られる。
队商たちが泊まる宿キャラバンサライは,スークに隣接して建てられた。旧市街の中にある由绪ある「ハーン?アサド?パシャ」は,中东最大のキャラバンサライである。保存状态もよく,中东初の自然史博物馆への転用が计画されたほど堂々たる建筑だ。プロジェクトの一环で私も実测调査を行ったが,その美しいアトリウムは往时の栄华を彷彿とさせるものであった。

住宅に囲まれた中庭。丸く开けられた天窓から光が差す

2阶が张り出した住居が连なる路地。スークや大通りの里には,细い路地が入り组んでいる

密集する住居。ところどころに小さな中庭がある

スーク?ハミディーエの入口前に残るゼウス神殿の门
教会型のモスク
スーク?ハミディーエを抜けると,世界最古にして最大规模を夸る「ウマイヤド?モスク」が现れる。イスラム教第4の圣地とされる场所だ。しかし,もともとローマ时代には,ここにはゼウス神殿が建っており,のちに洗礼者ヨハネの首が见つかったことで,神殿のローマ式列柱が用いられたままバシリカ式キリスト教会の圣ヨハネ圣堂に改筑された。
7世纪にイスラム教が勃兴すると,圣堂の东半分を接収して,モスクとして利用することになる。そして惊くべきことに,以后40年间,东半分はモスク,西半分はキリスト教会として共存していく。
やがて増え続けるイスラム教徒を収容するために,教会部分が壊され,モスクが建てられる。しかし,そのとき美しい贵重なローマの円柱は丁寧に取り外され,新たなモスクに再利用された。
モスクの中に入ってみると,ローマ式円柱の上に2段のアーチが架けられ,教会のなごりであるステンドグラスも见られる。ほぼ中央には圣ヨハネの首が祀られた圣堂も残されている。ここがモスクとはとても思えない。
异なる宗教の共存を経て生まれた建筑の空间构成の素晴らしさは,以后モスクの古典の形式となり,同时に西洋古典建筑にも大きな影响を与えた。

ウマイヤド?モスクの礼拝空间。ローマ式円柱やステンドグラスなど,キリスト教圣堂のなごりが见られる
宗教をも超える歴史の重み
このように,ダマスカスでは,街并みも,ウマイヤド?モスクを见ても,イスラム教徒とキリスト教徒とがお互いを尊重し共存していることがわかる。ここでは,何世纪もの间,人々が宗教の垣根を越えてともに暮らしてきたのだ。ダマスカスの歴史の重みの中では,信仰の违いなどはそれほど大きな问题ではないのかもしれない。
ところが2011年に起きた反政府デモをきっかけに内戦が始まり,现在は沉静化するどころか,もはや一国の问题にとどまらないところまで拡大している。内戦前のシリアはアラブ诸国の中でも治安の良い国として知られていたが,悲しいことに,いまは私たちが访れることもできない状态になってしまった。多様な価値観を认め合う,自由で活気ある素晴らしい街の姿に,1日でも早く戻ってほしいと祈るばかりである。

圣书にも出てくるカシオン山からダマスカスの街を见下ろす。中央にウマイヤド?モスクが见える
シリア?アラブ共和国![]()
(Syrian Arab Republic)
面积:18.5万办尘2(日本の约半分)
人口:2,240万人(2012年)
首都:ダマスカス
●アラブの公众浴场「ハマーム」
ハマームとはトルコ式スチームバスのことである。私もハーン?アサド?パシャ近くのハマームへ行ってみた。入口で贵重品を预けると中庭に案内され,やがて係の男がやってきて衣服を脱げと言われる。腰巻のようなものを巻き,木製サンダルを履いて浴场へ。
前室からスチームバスに入ると,汤気で周囲は见えない。一角から蒸気が常に出ていて,とにかく暑いが気持ちいい。床に腰をペタンと落ち着け座り込んでいる者,横になっている者など,人であふれている。周りには大きな水风吕があり,スチームバスから出た人は皆,桶で水をかぶっている。しばらくすると前室に出て休憩し,また入る。この繰り返しで相当に汗を出すことができる。

汤上がりに中庭でくつろぐ(右から3番目に笔者)
●おすすめは野菜料理
シリア料理は,野菜をふんだんに使うのが特徴。肥沃な叁日月地帯に位置するだけあり,さまざまな美味しい野菜(トマト,きゅうり,にんじん,レタス,ピーマンなど)が,色々な方法で调理されている。羊肉や鶏肉を使ったケバブなどの肉料理ももちろん有名だが,圧倒的に野菜や豆が中心といっても过言ではない。生野菜がかごにどっさり盛られて出てくるのもダイナミックだ。しかも野菜のスティックを何もつけずに食べるのだが,これがとても美味しい。野菜の歯ごたえが十分に味わえる。
またスークを歩いていて目につくのが,お菓子の店。シリアはケーキの発祥地ともいわれているそうだ。お菓子に使われるピスタチオの产地でもある。
古市彻雄(ふるいち?てつお)
建築家,都市計画家,元千葉工業大学教授。1948年生まれ。早稲田大学大学院修了後,丹下健三?都市?建築設計研究所に11年勤務。ナイジェリア新首都計画をはじめ,多くの海外作品や東京都庁舎を担当。1988年古市彻雄都市建築研究所設立後,公共建築を中心に設計活動を展開。2001~13年千葉工業大学教授を務め,ブータン,シリア調査などを行う。著書に『風?光?水?地?神のデザイン―世界の風土に叡知を求めて』(彰国社,2004年)『世界遺産の建築を見よう』(岩波ジュニア新書,2007年)ほか。





